羊蹄まちしるべ研究塾の歩み〜地域に学び、地域から世界と関わるために〜
「羊蹄まちしるべ研究塾」は、羊蹄山麓に広がる7つの町村の有志や商工会議所、商工会、観光協会などが、エリアの自然や歴史文化を学び合い、積極的に発信していこうと活動を続けてきました。その歩みは、2007(平成19)年に広域観光ガイド検定試験の運営組織(羊蹄山麓商工会広域連携協議会)としてはじまり、2010年からは自立した現在の組織となりました。多くの方のご支援ご協力をいただいて、これまできまざまな実績を重ねることができていることに厚く感謝申し上げます。
私たちの事業はニセコ羊蹄エリアの観光ガイド試験の運営からスタートしましたが、その根底には、自分たちが暮らす風土についてあらためて深く学び直そうという気持ちが強くありました。そこでまず、会員が互いに学び合う「学習研究会」を立ち上げて、回を重ねながらそのレベルを高めていきました。そして学んだ成果をガイドとして広く発信するために小中学校や事業所で「出前講座」をはじめました。加えて、主に観光客を対象にした「夜話」(宿泊施設)や、コミュニティ FM (ラジオニセコ)でのレギュラー番組制作、そしてJRの特急列車での車窓ガイドなどにも積極的に取り組んで来ました。
ほどなくして当初の狙い通り、地域ガイドの養成と彼らの体験的なスキルアップが、そのまま地域の元気や魅力を掘り起こすことにつながることを実感していきました。また、こうした取り組みを無理なく安定して続けることができる仕組みづくりも、私たちが重視してきたことでした。
ニセコ羊蹄エリアは四季を通して北海道有数の観光地であり、雑誌やインターネットなどにはたくさんの観光情報があふれています。しかしそうした情報の大部分は、誰でも手軽に手に入れられる表面的なものにすぎません。私たちはつねに、地元からしか発信できない情報や事業は何だろうと自問と試行錯誤をかさねてきました。出発点は、自分たちのことは自分たちでやるという気持ちです。そうした自治の気持ちを大切にしてきたからこそ、長く活動を継続することができたのだと思います。そこに暮らしている人間だからこそ気づいた土地の魅力を、かけがえのない資源として誰にでも見える形で発信していくことは、地域の全体像を自ら学ぶことの価値をあらためて教えてくれました。外部の方はこのエリアを学ぶのに対して、私たちはエリアに学んできたと言えると思います。
21 世紀になってからオーストラリアやアジアからのたくさんの移住を迎えているニセコ・羊蹄山麓ですが、もともとニセコなどでは古くから多くの移住者を受け入れてきました。明治・大正期の入植の時代を経て、比羅夫にスキーリフトが架けられた 1960年代以降ここに新たに根を下ろした人々は、土地の歴史風土に根ざした農業や酪農にふれながら、主に観光の分野で暮らしを成り立たせてきました。大地と人の営みの分厚い蓄積が、このエリアならではの新たな産業や文化を育んできたのです。
この土地には、世界有数の雪質を誇る上質なスキー場群を核にして海外からのツーリストが数多く訪れ、地元の人々との交流から国際的な文化が生まれています。ニセコ羊蹄エリアは、かつて西欧の技術文化を積極的に取り入れながら開拓に挑んだ先人たちの歩みの上にある、北海道ならではの厳しい自然と人間の関わりが、最もわかりやすく濃密に現れている土地ということができるでしょう。
国内外のたくさんの地域から訪れる人々のまなざしを意識することは、私たち自身の営みをこの土地の風土へとさらに強く結ぶことになります。エリアに注がれる外部の目を意識すればするほど、私たちはこの土地の価値や魅力をいつくしみ、自らの言葉や行動で効果的に発信していかなければならないと思います。地域に深く根ざすことでこそ、さまざまな人々と出会い、世界と広くつながることができるはずです。「羊蹄まちしるべ研発塾」の活動は、そんな気づきと学びを私たちにもたらしながら、これからさらに新たなステージをめざして続きます。
「羊蹄まちしるべ研究塾」松橋秀人(塾長)
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